衝撃のクマムシゲノム解析結果 -疑念編
前回の記事では、クマムシゲノムの解読され大量の水平伝播(HGT)で得られた遺伝子が発見されたことを紹介した。
なぜ、この大量のHGTで得られた遺伝子の発見が話題となったか、少し解説をしよう。
異種間(例えば人間とカエルなど)での遺伝子の受け渡しであるHGTは通常は稀である。
このような方法で加わった遺伝子の多くは、その遺伝子単独で機能を持っている可能性が高い。
今回の場合でも、細菌の乾燥耐性などの遺伝子が、まったく別の種であるクマムシの細胞の中でも、同様な機能を持っていると結論付けられた。
そうであるならば、その細菌の遺伝子を植物の細胞に入れれば乾燥に強い植物が出来たり、動物の細胞に入れれば人工培養に強い細胞が出来たりするかもしれない。
たった1つの遺伝子で、乾燥に強い植物や人工培養に強い動物細胞ができれば画期的なことだ。
その遺伝子が、このクマムシのゲノムの中に必ずあるはずだ。
それゆえこの研究は注目を浴びた。
しかし、論文発表当初から、ネット上では一つの懸念が議論されていた。
クマムシの表面や体内にいた細菌の遺伝子を、クマムシの遺伝子と間違えているのではないかという懸念だ。
現在のシークエンス技術は、目的のDNAを細かく切ってから解読し、解読後のデータをコンピュータで解析し、元の長いDNA配列を復元する(「アッセンブリ」という)。
ちょうど、新聞紙をシュレッダーにかけて、ばらばらになった文章を文脈などによって集めて、元の新聞を復元するようなものだ。
この時に、折込み広告も混ざってシュレッダーしまっていたら、復元した時に元の新聞に広告が混じったものが作られてしまうかもしれない。
であるから実際の研究では、細菌などの混入を防ぐ出来るだけの努力をし、DNA配列のアッセンブリには時間をかけて丁寧に行うのだ。
しかし、論文ではクマムシの洗浄を十分行ったようには書かれていないし、DNA配列のアッセンブリも丁寧に行ったように書かれていない。
だからHGTで得られた遺伝子と言われたものの、ほとんどがクマムシの表面や体内にいた細菌の遺伝子ではなかったのかという懸念がでたのも当然だ。
そして、4ヵ月後この懸念が現実のものであったと証明されてしまう事になる。
続く