「安定した高い地位にいる人は不正なんかしない」という誤解 東大病院の捏造論文疑惑に関して
東大病院の研究不正疑惑に関連した記事にたくさんのアクセスを頂いている。
多くの方々が研究不正問題に興味を抱いている事に感謝したい。
今回の騒動で研究不正問題というものをはじめて自分から調べようとした方(特に若い研究者、学生)も多いのではないだろうか。
そういった方がこの研究不正問題を正しく理解する上で妨ぎになりかねないのが、「安定した高い地位にいる人は不正なんかしない」という誤解である。
今回も実際に上氏の記事にはこのような一節がある。
告発された○○教授は前東大病院長、日本内科学会の理事長も務める大物だ。私は、彼が不正をしたとは思わない。そんなことをする必要がないからだ。ただ、講座のトップとして責任がある。果たして、どんな形で責任を取るのだろうか。
(懲りない東大医学部、またも論文捏造 (JBpress) - Yahoo!ニュースより、個人名はブログ主によって伏せています)
研究不正は「身分の不安定なポスドクあたりが犯しそう」という先入観を持っている人も多いが、実際は高い地位に居る人間こそが研究不正を犯しているのだ。
既に松澤氏の論文で、教授や学長や所長など「アカデミックランクの高い研究者」が研究不正に関与しているリスクが高いことが明らかになっている。
この事実に関して、
①学長や所長などは、有名な人物であるから注目されやすく、不正が発覚しやすい(アカデミックランクの低い研究者も不正を行っているがバレないだけ)。
②不正を行えば良い論文に掲載され、結果アカデミックランクも高くなる。アカデミックランクが高くなった後に不正が発覚している。
などの意見もあり、事実の捕らえ方も人それぞれ、と言うのが現状である。
しかし、「安定した高い地位にいる人は不正なんかしない」というのが誤解であることは明らかであろう。
では、なぜ安定した高い地位にいる人でも研究不正を犯すのであろう?
この疑問にはいくつもの答え方があるかもしれないが、次の説明も一つの答えだろう。
「安定」とか「高い」とかはあくまで比較の表現である。
「ポスドクより教授のほうが安定している」や「所長は研究機関の一番高い地位にいる」というのは誰も否定はしないだろう。
しかし、実際に教授になってみれば「ただの教授」ではなく、より「安定した教授」(多額の研究費が毎年得られる教授など)であることを求めるようになるだろう。
所長に登りつめても、それでは飽き足らずに次のステータス(ノーベル賞など)を求め始めるであろう。
欲を出したら、地位の高さや安定はに上限などないだろう。
教授や所長の立場の人が無条件で安定した高い地位にいるかのように見えるのは、若い研究者たちが厳しい立場に追いやられている現状(=ポスドク問題)の裏返しなだけなのかもしれない。
私たちはつい最近、安定した高い地位にいる人が研究不正に関わる例を目撃している。
STAP細胞事件のときの故S副センター長(当時)である。
彼は高い業績をあげ、当時既に将来センター長になることが確実視されていた。
しかし、STAP細胞事件の責任者の一人とされ*1、結果的に自死に至る。
もともと彼がSTAP細胞の研究にあまり関与していなかった彼が、
この研究に深く加わるようになったのはノーベル賞を意識していたためと考えられている。
この故S氏は積極的にデータ捏造などの研究不正を犯そうとしたのではないだろう。
しかし、ギフトオーサーシップも立派な研究不正であり、彼の周辺ではギフトオーサーシップが横行していたことも伺われる。
安定した高い地位にいる人でも研究不正を犯す例は、日本だけでも過去にいくつもある。
研究不正問題を正しく理解するためにまずは、「安定した高い地位にいる人は不正なんかしない」という誤解を解くことが必要だ。