節子、それは「進化」やない・・・
「進化」という日本語が出来たのは、明治時代のようだ。
「神経」や「自然」などの単語とともに、欧米語の翻訳語として作られた。
現在では、「コンピュータの進化」などと本来の意味を超えて
使われることのほうが多いかもしれないが、もともとは生物学の概念である。
「進化」の誤用で有名なのは、「ポケモンの進化」であろう。
一般に動物などでの「進化」とは、
長い時間(少なくても何十世代や何百世代)をかけて
少しずつ元の種から変化し、別の種になることを意味する。
同じ個体の劇的な変化は「変態」と言い、
ポケモンの「進化」は本来は「変態」と呼ばれるべきである。
コンピュータの劇的な変化も「進化」と表現されてしまうから、
ポケモンの変態も「進化」と呼んだほうがしっくりくるのかもしれないが・・・。
そんな本来の意味とは異なる使い方をされる「進化」という言葉だが、
今日もYahoo!JAPANのトップページで間違った(?)使い方をされていた。
悪性の顔面腫瘍で個体数が大幅に減少したタスマニアデビルは、非常に急速な遺伝子進化を通して絶滅の危機から立ち直りつつあるとみられるとの驚くべき研究結果が30日、発表された。
オーストラリアのタスマニア(Tasmania)島にのみ生息する、イヌほどの大きさの夜行性の肉食有袋類で絶滅危惧種に指定されているタスマニアデビルについて、20年前に顔面腫瘍が発生した前後の294個体のゲノム(全遺伝情報)を詳細に比較した結果、ほんの4~6世代の間に、7個の遺伝子に種全体に及ぶ適応進化が起きていることが明らかになった。7個のうちの5個は、哺乳類の免疫力とがんへの抵抗力に関連する遺伝子だ。(後略)
ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された論文をもとにしたニュースだ。
新たな伝染性の病気の流行により、特定の遺伝子(アリル)を持ったタスマニアデビルの個体の割合が増えていると言う内容だ。
そして、その特定の遺伝子はこの病気に対する抵抗性を持っている可能性があり、この現象をネット記事では「進化」と表現している*1
しかし、この現象は「進化」というより「自然選択(選抜)」と呼んだ方が適切だろう。
元の論文を見ても「evolutionary response[進化的反応(変化)]」や「selection(自然選択)」と表現している。
確かに、自然選択は進化の過程の重要な一部ではあるが、
自然選択によって進化が必ず起きるわけではない。
「進化」と付いたタイトルをつけるのは、ミスリーディングだろう。
では、なぜ「進化」と付いたタイトルが作られたのか?
論文中では著者たちは「進化」という直接的な表現は避け、
慎重な表現をしているものの、取材中では「進化」という言葉をつかったようだ。
米ワシントン州立大学(Washington State University)のアンドリュー・ストーファー(Andrew Storfer)氏はAFPの取材に「タスマニアデビルは進化している」と語る。「特筆すべきことに、この進化は極めて急速だった」
米アイダホ大学(University of Idaho)のポール・ホーエンローエ(Paul Hohenlohe)氏によると、タスマニアデビルが「著しく急速に進化している」ことをこのデータは示しているという。
専門家であろう著者たちが、「進化」と「自然選択」の違いを理解していないとは考えにくい。
一般の人にも分かりやすいように「進化」と言う言葉を使ったのかもしれないが、
「進化」と言う言葉を使うことによって注目を集めようとしたのかもしれない。
この取材を元にネット記事が作られ、「進化」と言う言葉がタイトルに含まれるようになったのだろう。
いずれにしろ、このネット記事により「進化」と言う言葉に対する誤解がまた広がるかもしれない。
否、誤解ではなく、「進化」という言葉の「進化」かもしれない・・・。
*1:「遺伝子進化」や「適応進化」とも表現。