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任期付き助教は、任期付き羊の夢をみるか?

任期制を導入した人たちは、任期付き羊の夢など見ないだろう。

卓越研究員制度のカラクリと問題点

先日、2016年度から始まる卓越研究員制度の記事を投稿した。

時間がなく短めの記事となってしまったので、改めて卓越研究員制度を取り上げる。
 
卓越研究員制度は、一言で言えば若手の博士号取得者と企業のマッチングサービスだ。
国が若手の博士号取得者を審査し、150人程を卓越研究者として選定する。
一方で、国が民間企業などに就職先の募集を行い、選定された卓越研究者に就職先を紹介する。
就職が決まれば、国から雇用先に研究費などの補助金が出る。
一見、就職に困っている博士号取得者にはよい制度かと思えるが、運用に当たって様々な問題が起こると予想される。
(記事の最後の太字の部分に問題点をまとめているので、時間のない方は本文を飛ばして読んでください。)
 
 
 
数日前に、企業からの応募が予想より多くの約300人分のポストにが確保できそうだという、幸先がよいニュースが報じられた。
しかし。企業側にとっては応募をしても採用する義務はないので、「取りあえず応募しとくかー」ぐらいの企業も多々あるだろう。
本気で採用を考えている企業はいったいどれぐらいいるかは疑問である。
更に、一言で研究者と言っても分野はかなり幅広い。
医学、薬学、歯学、獣医学、工学、保健学、文学、史学、経済学などなど。
それぞれの分野に、更に詳細な分野分けもある。
例えば、工学には、自動車関連、航空機関連、原子力関連、ロボット関連などが含まれている。
300人分の就職先が確保できそうでも、その専門分野に偏りがあれば、150人全員が就職できるわけではなくなる。
だから、300人分のポストにが得られそうと言っても、その内容次第では全く喜べないのだ。
(むしろ300人分では足りないのではないかと、ブログ主は危惧している。)
 
研究者側の応募も150人を大きく上回るのは確実だろう。
なぜなら、不安定な雇用形態で働く博士号取得者は2万人程もいるからだ。
そのような博士号取得者の雇用期間は多くの場合で1年から5年である。
平均で3年とすると、毎年6000から7000人ほどの博士号取得者が次の仕事先を探している計算になる。
彼らの就職活動も、大卒見込み者の就職活動(いわゆる「就活」)と大きく変わりない。
幾つもの大学や研究機関などに履歴書を送り、面接を何度も受けて、ようやく次の就職先を確保する。
しかも、それを数年ごとに行わなくてはならない。
多くの若手研究者にとって、この卓越研究員制度は就職探しの一手段になるだろうから、150人の枠に1000人を軽く超える人数が応募してくることが予想される。
問題は選考方法だ。
一応は客観的な選考基準は決められているものの、おそらく150人のうち半分以上が「コネ」枠となるだろう。
一部の大学の(悪い)AO入試のように選考基準など有って無いようなものになるかもしれない。
更には、選考基準はこれまでに発表した研究論文への評価が中心となるだろう。
優れた研究者なら、優れた研究論文を発表していて当然だ、と思われるかもしれない。しかし、実際には現在の大学や研究機関での評価システムが研究論文に偏り過ぎているため研究不正などの問題が続出しているのだ(*)。
この問題をより悪化させかねない。
* この問題がより深刻視されているアメリカでは、一部の研究関連団体で研究論文偏重の評価システムの見直しが始まっているほどである。
 
更には、応募したものの選定されなかった研究者の対する問題だ。
「応募しても選ばれなかったんだから、才能がないんだよ」と言う見方が広まらないかというのが、ブログ主にとっては心配である。
応募数が1000を大きく超えるとなると、選定されるのは10人に1人かそれ以下となる。
10人に9人が「才能なし」と誤解される可能性がある。
もしも、半数が本当に「コネ」で決まってしまうなら、この数は更には悲惨なものになってしまうだろう。
そもそもすべての博士号取得者は高い能力が認められて学位が与えられたはずなのに…。
 
「博士過剰」が問題視されるようになってから少なくとも15年になる。
この過剰状態は文部科学省ポスドク1万人計画により意図的に引き起こされた。
しかし、文部科学省と国はこの問題を放置したまま、ほとんど対策をとって来なかった。
文部科学省は、この卓越研究員制度でごく少数の非正規博士研究者を救い出し、残された多数の博士には目をつぶり、責任を取らずに逃げ切るつもりではないだろうか。
しかし皮肉なことかも知れないが、文部科学省や国が対策を取らずとも博士過剰問題はじきに解決すると思われる。
なぜなら、30代、40代の博士号取得者の惨状を見て、博士課程に進学しようとする若者が減少し続けているからだ。
こうして近いうちにポスドク1万人計画は「失政」として幕を閉じるだろう。
現在の30代、40代のポスドクは、文部科学省の壮大な「社会実験」に付き合わされた被験者だったのだ。
その実験の失敗の後始末のための卓越研究員制度ではないだろうか。
 
以上の問題点をまとめると、
 
1.企業側の応募が多数となったのは、取りあえず応募していても損はないから。
どれだけ採用に本気の企業がいるかは不明である。
 
2.専門性の高さを考慮すると、就職先のポストは300でも足りないかもしれない。
 
3.卓越研究員の150人に、一定数の「コネ」枠が存在することになるだろう。
 
4.選定基準も研究論文偏重でこれまで以上に研究環境を歪める危険性がある。
 
5.国と文部科学省は、この卓越研究員制度でポスドク1万人計画の失敗を隠し、逃げ切ろうとしているのではないだろうか?